ワクチン摂取とトロッコ問題

私は運良く、高等教育において生化学や分子生物学、医学をかじることができたので、mRNAワクチンの作用機序から生体内での反応までをある程度理解できるのですが、そういったバックグラウンドがない人のワクチン摂取に対する反応を、どのような判断基準で反応しているかを考察してみました。

私のスタンスとしては、ワクチン摂取で副反応、アレルギー反応、注射による迷走神経反射、神経障害、その他の予期せぬ障害があり、中には残念ながら死に至るケースもあることを認めております。

一方で、これまで築き上げてきた科学への信頼を担保に、製薬会社などが発表している、ワクチンの感染や重症化予防に関する情報をある程度信用しています。

おそらく、社会で健康に暮らしている方の大多数は、これまで科学論文に触れてこずに、どうやって論文が書かれているか等の知識は欠如していると思われます。さらにその上で突然やれPCRだmRNAだ副反応だなどの基礎知識のない情報が一気に押し寄せて、一種のパニックと拒否反応を示し、頭が情報過多になっているものと思います。そういった状態では脳は自分の都合の良い情報のみを取捨選択し始め、科学的な思考から離れた行動をし始めます。よくがんになった方が手術や化学療法を拒否し、耳障りの良い民間療法に傾倒していくものと似ていると感じています。

そしてその状態で与えられる情報は、確かなワクチンの副作用と、不確かなワクチンの本来の作用です。感染回避や重篤化の回避は効果の判定が非常に難しい。統計学的に示さなければいけない。一方でワクチンの副作用はその症例や数を調べ上げればすぐに出てきます。また、ワクチンを摂取したのに死亡したなどのネガティブな事例もすぐにニュースとなって流れます。そうなるといくらワクチンに感染予防効果があるかもと言われても、ネガティブな情報の方が触れる機会も多いし、理解もしやすい。それならワクチンを打たない方が良いという結論になることも理解できます。

ところでこのような確かな悪状況と不確かな良状況を自分で選択しなければいけないシチュエーション、トロッコ問題に似ていませんか。

トロッコ問題とは、暴走するトロッコの先に分岐があり、それぞれ5人の作業員と1人の作業員がいて、あなたの目の前にはトロッコの行き先を操作できるレバーがある状況を仮定します。そのまま進むと5人の命がなくなるが、あなたの操作で一人だけの命を犠牲にできる状況の時、あなたはレバーを操作しますかという心理学的な思考実験です。

これをワクチン摂取に当てはめると、外的要因でコロナウイルスに感染する(5人分の死)か、自らの意志でワクチン摂取のリスクとベネフィットと取りに行く(1人分の死)を自分の体で選択させられていることとなり、非常にトロッコ問題によく似たシチュエーションになっていることに気づきました。

つまり今、地球上の人類の大半は現在進行形でトロッコ問題に直面し、感染状況が変わるたびに判断を強いられている状況になっているということです。

僕が一番納得しているトロッコ問題の考え方は、自分の選択で人を殺したという事実が生まれ、社会的責任が問われかねないという理由から、レバーを操作せず、本来の状態である5人を犠牲にする、というもので、実際同様の状況に出くわしたらそうするだろうなぁとぼんやり考えていました。

今回、自分の職業や知識的背景からワクチン摂取に関しては、自分でリスクを取りに行く選択をしましたが、ワクチン摂取をトロッコ問題に置き換えて反ワクチン派の心中を察するに、トロッコ問題を解かされて、行政や周囲からはレバーを操作しろって風潮になっているとそれはそれで辛いだろうなぁと察しました。