痩せるという化学反応 〜物質収支 呼吸〜1
これまでエネルギー代謝に関する説明が続きました。体内の反応は非常に複雑、難解であることがお分かりいただけたかと思います。
さて、これからは痩せるという観点に立って呼吸について深く考えてみたいと思います。
呼吸といってもヨガとか波動とか水とかの呼吸法の話ではなく、化学の観点から見た呼吸です。
痩せることと呼吸がどう関係あるんだと思われるかもしれませんが、大いに関係あります。
ここで一旦最初の前提にたちかえりましょう。痩せるとは体重を軽くすることです。扱う単位はkg(キログラム)です。現在ダイエットの指標に使われている単位はカロリーです。これはエネルギーの単位で重さはありません。
この扱う単位が異なっていることが現在のダイエットの最大の問題であり、ダイエットを難しくしている一因だと考えています。
そこで一度全て重さの話をしてみましょう。そこには物質収支という化学工学の考え方が役に立ちます。
これは複雑な反応をする化学プラントを制御する考え方です。内部の全ての反応を明らかにしコントロールするのは困難なので、とりあえず入れた物質(インプット)と出てきた物質(アウトプット)の差引で制御しましょうということです。
しかしこれをそのまま人体に当てはめるのも大変です。インプットとは食事です。しかし食事も細かく見ると糖分が〇〇g、脂肪が〇〇g、タンパク質が〇〇g、食物繊維が・・・と続き、それをいちいち測定するのは容易ではありません。アウトプットも同様です。排便、排尿中の栄養素をいちいち測定できませんし、体内に吸収される栄養素もその割合を測定するのは困難です。ただわかるのは明らかにインプット>アウトプットになっていて、その差額が脂肪として体内に蓄積されているということです。
じゃあどうするのかというと、液体、個体の物質収支は非常に複雑ですが、気体の物質収支は非常に簡単です。酸素を吸い、二酸化炭素を出す。気体の蓄積は体内にありませんので、常に吸った分の酸素は同じ量の二酸化炭素で帰ってきます。小学生でも知っている事実かと思います。
化学式で示すとO2 + C = CO2と今まで見たことないくらい簡単です。
しかしよく見てください。酸素を吸って、二酸化炭素を吐く。つまり酸素に体内の炭素(C)を背負って吐き出しているのです。物質終始で考えるとO2(分子量32) + C (分子量12) = CO2(分子量44)となります。つまり、呼吸をするたびに体内のCがちょっとずつ排出されるのです。この物質収支の登場人物は他にありませんから、呼吸をするたびに体がちょっとずつ軽くなるのです。
ではどれくらい軽くなるのでしょうか?
様々な文献がありますが、人の呼吸によるCO2排出量は一日約1kgだそうです。
体内から削られる炭素の量は分子量の割合に等しくなるので、1kg x 12/44 = 約272gとなります。
これは驚きの数字です。人間(生物)は実は呼吸をするだけで1日300g近く体が削れているのです。10日で3kg、1ヶ月約10kgもです。この驚きの数字に気づいた時、このシリーズを執筆しようと考えました。
ではこの炭素はどこから来ているのか、これまで見てきた代謝の反応をおさらいしてみましょう。